« 2002年5月のわたし | トップページ | FELICIDADE~~しあわせは »

2005.05.22

時には暗闇の中で

あ、懐かしい! キャロル・キング!
何ヶ月か前のある日、池袋のタワーレコードで偶然みつけたキャロル・キングのCD。10代で聞いた彼女の歌。たぶん、彼女の歌はこの一曲しか知らない。キャロル・キングの"JAZZMAN"が遠い記憶のかなたから聞こえてくる。

Lift me, won't you lift me above the old routine.
Make it nice, play it clean, jazzman.

なんだかよくわかんないけど、かっこいいーー!
背筋がゾクゾクするような快感を感じながら聞いたキャロル・キングの"JAZZMAN".

高校生だったわたし。歌といえば音楽の教科書と山口百恵のヒット曲。キャロル・キングなんて名前すら知らなかった。英語のお勉強のために毎晩のように聞いていた文化放送の「百万人の英語」のテキストに載っていた歌詞を見て、なんだかかっこいい英語だなあ、と思った。そして、番組でキャロル・キングの歌を聴いて、「か、か、かっこいーーー!」と夜中にひとりでゾクゾクしてしまったのだった。

コンサートやライブハウスなどとは無縁の青春時代。友達も少なかった。10代、20代のわたしは何が楽しいと感じていたのだろうか。そうだ・・・わたしはひとりになりたかったのだった・・・・キャロル・キングのJAZZMANとともによみがえる記憶。それは、逃げ込むようにして通ったジャズ喫茶。なぜ、その店を知ったのかは覚えていない。池袋の西口のゴチャゴチャした飲食店街の小さなビルの2階にあったそのジャズ喫茶にひとりで通っていた。ジャズのことなど何もしらなかった。興味もなかった。ただ、始まりも終わりもはっきりしない渦のような音楽の中に不思議な居心地のよさを感じていた。わたしは、一人になりたかった。かわいい女の子達を遠目に見ながら一人ぼっち感を感じるよりも、暗いジャズ喫茶で、苦い珈琲をすすりながら、掴まえどころのない音楽にひとりで浸っている自分でいたかった。ああ、ここにいるときは、わたしは一人で、わたしは自由。大きなスピーカーの向こう、レコード盤の中のJAZZMANに、すがるような思いを寄せていた・・・

Lift me, won't you lift me above the old routine.
Make it nice, play it clean, jazzman.

それから長い長い道のりを経てサンバに出会い、ライブハウスというところに足しげく通うようになる。そして、身も心もふんわりと宙に浮かぶような幸福を感じる。音楽、いい音楽を聴くと幸せになれるのね。ひとは、幸せになりたくて、一時でも幸せになりたくて、生の音楽を聴きにやってくるのね・・・・日常の大きな悩み、小さな苛立ちから解放されて、ふんわりと宙に浮くために、「今夜もおお願い。いい音楽を聞かせてね」という声にならない声をステージに送る人々。陽気になるために集う人々のなかにわたしはいた。目の前にいるのはJAZZMANではなくてサンビスタだったけれど。やはり、この言葉を投げかけていたのではないだろうか。

Lift me, won't you lift me above the old routine.
Make it nice, play it clean, jazzman.

またしばらくの時を経て、今度は自分の内側からこの叫びを聞いたような気がする。ギターを抱えてあちこちで歌うようになったわたし。いったいなぜ歌っているの? それは、幸せになりたいから。歌っているときのわたしは、いちばん自由で幸せだから。さあ、歌い始めようとするその瞬間に、わたしの中のもう一人のわたしが、声にならない声を送る・・・

Lift me, won't you lift me above the old routine.
Make it nice, play it clean, jazzman.

そして今夜。久々に取り出したキャロル・キングのCDを聞いてみる。懐かしい歌、JAZZMANの向こうから、20代のわたしの孤独が聞こえてくる。そうだった。ジャズ喫茶の暗闇と煙草の煙の中で、わたしは楽しくなるために音楽を聴いていたのではなかった。自分ではうまく語りつくせない苛立ちや不安や孤独感。そんな鬱々としたわたしを、ジャズという名前の混沌とした音楽がゆさぶり、圧倒していた。とことん暗くなりたくて、暗闇で聞いた音楽・・・20歳前後のわたしは、時としてそういうふうに音楽を聴いていたのだった・・・・すっかり忘れていたけれど。

Lift me, won't you lift me above the old routine.
Make it nice, play it clean, jazzman.

そして、またある日。わたしは、ミュージシャンの心の底から、声にならない叫びを聞いたような気がする。ミュージシャンの体の奥で渦巻く幸福と苦悩。あるときは、彼の発する音は彼に至福の時をもたらし、またあるときは、ステージの上で絶望的な孤独を思い知る。偉大な才能に恵まれれば恵まれるほど、その苦悩も凡人にははかり知れないほど大きいのかもしれない。

そして、時には彼の、彼女の苦悩の叫びに人々はひきつけられる。そういう音楽があるということを、20歳のころのわたしは知っていたのかもしれない。ジャズ喫茶の暗闇の中で、今とはまったく違う耳で音楽を聴くわたしがいたのかもしれない。

今夜は、暗い暗い渦に身を投じるようにして聞いてみよう。誰しも逃れることのできない孤独を音楽に感じてみよう。そして、音楽の中にかすかな夜明けの光を見出してみよう。

Lift me, won't you lift me above the old routine.
Make it nice, play it clean, jazzman.

|

« 2002年5月のわたし | トップページ | FELICIDADE~~しあわせは »

コメント

キャロル・キングといえば・・・ 一枚だけ持っているCDの中では、It's Too Late てのが好きかな・・・JAZZMANの次にね。

投稿: ももこ | 2005.05.25 00:06

キャロル・キングといえば、やっぱり「YOU'VE GOT A FRIEND」だす。
ロバータ・フラックのこの曲よりも泣けるよ。

投稿: じゅげみーにょ | 2005.05.23 02:05

胸の深いところにくる話でした。
私もキャロル・キングの"Jazzman" 大好きです。
私もちょうど20歳前後のころ、よく聴いていた・・・
キャロル・キング。

投稿: ひとみ | 2005.05.22 09:50

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/84574/4226660

この記事へのトラックバック一覧です: 時には暗闇の中で:

« 2002年5月のわたし | トップページ | FELICIDADE~~しあわせは »