少年時代
5月の日曜日。サンバ友達の弘美ちゃんと二人で、「江東区腕白相撲大会」というイベントに参加した。
会場は都立高校。ここに、江東区内の小学生が700人!とその家族が集まって、1年生から6年生まで、学年別、男女別(女の子だって相撲するんですよ~!)に相撲をするのです。
朝から午後3時ごろまで、体育館では熱戦が繰り広げられます。
そして、出番を待つ、あるいは、残念ながら予選で負けてしまって出番がなくなった子達は、ロビーや中庭に出てきます。
そこには一芸に秀でた(?)おじさん、おばさん、お兄さん、お姉さんが待ち構えていて、子供達を楽しませてくれる、という趣向になっているのです。
ジャグリング芸人のお兄さん。
津軽三味線弾きのお姉さんデュオ。
ベーゴマ遊びを教えてくれるおじさん。
そして・・・
サンバを歌う弘美おばさんとMomokoおばさん!
というわけです。
弘美ちゃんはギターにカヴァキーニョ。Momokoはタンタンを叩いて、サンバを歌ってみんなで盛り上がろう!
太鼓に興味津々の子供達にいいように遊ばれながら、二人はサンバをうたい、太鼓を叩き、子供にシェーカーをプレゼント・・・とサービス精神を発揮してガンバリました。
ひとしきり、みんなで太鼓を叩きっこしたところで、子供達が言い出しました。
「もっと、知ってる歌、うたってよー!」
やっぱりねえ。
子供も大人も、遠い異国の歌、サンバなんて面白くないわけだ・・・
でも、この子達が好きな歌っていったい何だろう? ふだん子供に縁がない弘美&Momokoには見当がつかない。
「じゃあ、どんな歌が好きなのよ?」と回りの子達に聞いてみた。
最初は。
ドラえもん!
アンパンマン!
それから。
カントリーロード!
そして、女の子達が歌いだす。
翼をください!
ビリーヴ!
そして、ひとりの男の子が主張した。
「少年時代」がいい!
え? 少年時代?
まさか・・・あの、少年時代?
にわかに信じられなかったわたしは、「ちょっと歌ってみてよ」と男の子を促した。
すると・・・彼はうたいだしたのです・・・・
♪なーつがすーぎ かぜあざみー
♪だれの おもかげに さまようー
それはまさしく井上陽水の「少年時代」。
さっきまでわたしの大事な太鼓をドンガン叩きまくっていた男の子が、「少年時代」を口ずさむ。
それは感動の不意打ちだった。
子供達が好きそうな歌はいくらでもありそうじゃないですか。
アニメソング。
CMソング。
ドラマの主題歌。
アイドルの流行の歌・・・・
でも、口のヘラナイ男の子が、「この歌がいい!」と主張したのは「少年時代」だったのです。
*****
5月の最後の日曜日。
とある公民館でギターサークルの発表会を聞きました。
公民館の体育室にはパイプ椅子が並べられ、正面には10名ほどのギターサークルのメンバーが緊張気味にギターを抱えて座っています。
平均年齢は60歳近くではなかろうか。ゆったりと、ゆっくりと、確かめるように、一生懸命ギターを弾く姿に、詰め掛けた家族や友人たちは聞き入っています。
1曲終わるとねぎらいの拍手。
そして、何曲目かに、パッヘルベルのカノンが聞こえてきました。
あら? プログラムにカノンはあったっけ? 予定外の曲なのかな?
不思議に思いながら聞き進むと、パッヘルベルのカノンは「少年時代」へのプレリュードだったのです。
高音部を担当する数人がメロディを美しく歌います。
コードを弾く数人がゆったりと伴奏します。
どの人も気持ちよさそうに、ちょっぴり誇らしげに弾いています。
サークルメンバーの歌心が見事に表われた演奏。
そして、最後にもう一度パッヘルベルのカノンに戻って、静かに終わる・・・
一呼吸おいて、客席から精一杯の拍手が沸き起こりました。それは、さっきまでの「ねぎらいの拍手」ではない。「名演奏」への拍手でした。
*****
井上陽水の「少年時代」。
子供のころの夏休みの心象風景を素直なメロディにのせて歌う。日本人の心に染みる名歌と言えるでしょう。
日本人の心に染みる詩とメロディ。世代を超えて受け継がれる「いい歌」を愛する心。
ずいぶんと古い歌のような懐かしさを感じるけれど、調べてみたら、発表は1992年。14年前の歌だった。
腕白相撲大会の小学生から、熟年ギターサークルのおじ様、おば様たちまでを歌わせた名曲。
井上陽水は、この一曲だけで、日本の音楽史上に名を残すに違いない。
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