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2015.01.25

ウィスキー

年越しらしい支度もせず、それでいて何かと雑用に追われながらの年の暮れ
階下の母の部屋から流れてくる紅白をかすかに耳にしながら、ふーっと長い溜息をついた。

いろいろあった一年。
これといって成し遂げたことのない一年。

来る年もこうして月日をやり過ごしていくのだろうか。
長いため息を吐きだすのと同時に、胸の中に歌の一節が流れた。


  ウィスキー ウィスキー 光の水よ
  俺をどこかへ 連れてってくれ・・・


市川のライブハウス、アルマナックハウスのマイスターがよく歌うウィスキーの歌。
胸の中にその一節が流れたものの、数回しか聞いたことのないその歌の記憶は断片的であやふやなもの。
ネットで検索してもヒットしない。
年始早々はアルマナックハウスも休みだろう。

どうしても聞きたくて、少しでも早く聞きたくて、アルマナックハウスに出演されているMOGAMIさんにお尋ねして、この歌の作者、やなぎさんのyoutubeのリンクを教えていただいた。

旅する歌うたい、やなぎさんの曲、「ウィスキー」。
新年早々、何度も何度も聞いて、泣いた。

・・・・・・・・・・

1月半ばのある夜。
仕事を終えて、高円寺の稲生座に足を運ぶ。
小さな居酒屋風の造りのその店のカウンターにやなぎさんはいた。
ギターとともに車に乗って旅に出ると、2か月も3か月も岩手の自宅には帰らない。旅する歌うたい、やなぎさん。

どうやら本当にウィスキーがお好きらしい。
お酒の歌がいくつも続く。
派手なパーフォーマンスも余計なお喋りもなく、歌い続けるその歌にじっくりと耳を傾ける。
ああ、この人の歌を聴くにはウィスキーのグラスを手に持たねば。
目の前のココアのカップが恨めしかった。

4,50分のステージの最後の曲が終わる。
あれだけ聞きたかった「ウィスキー」は今夜は歌われなかったが、やなぎさんの歌ごころ、旅ごころに浸って、酔った貴重な時間。

ふーっと満足の吐息を吐く。

その時、隣に座っていたほろ酔い加減のお姉さんが叫んだ。

「アンコール! アンコール! ウィスキー! ウィスキー!」

彼女のウィスキー・コールに応えて、ふたたびギターを手にしたやなぎさんが歌い出す。


 小麦の畑なんか 見たことないが
 そこは眩しい光に 包まれているんだろうか


いい加減に酔っぱらったお客たちは、やなぎさんが切々と歌うウィスキーの歌にけらけらと笑う。
そんな酒飲みの輪の中で聞く「ウィスキー」が、実によい。
嬉しくて、嬉しくて、泣きながら聞いた。

・・・・・・・・・・
終演後。

「お姉さん、ウィスキーの歌をリクエストしてくれてありがとう。私、あの歌、大好きなんだけど、リクエストする勇気がなくて・・・」と、私。

「私、知らなかったよー、この歌! でも、気持ちよくなっちゃった。これからウィスキー呑みに行っちゃおう! じゃあね!」

そして、ほろ酔いのお姉さんはウィスキーが待つ次の店へ向かった。

・・・・・・・・・・

ステージで後片付け中のやなぎさんにお礼を言う。

「アルマナックハウスのマイスターが歌っているウィスキーの歌が聞きたくて、MOGAMIさんに教えていただいて、ようやく聞きにくることができました」

「MOGAMIとはもう長いつきあいですよ!」

MOGAMIという呼び方に男同士のつながりを感じて、ただただ羨ましかった。

勇気を出して、もう一言付け加える。

「私はお酒は飲めないのですけど、このウィスキーの歌、うたわせていただいてもいいですか?」

自分のスタイルで歌ってくださいと言ってくださった。


 ウィスキー ウィスキー 光の水よ
 俺をどこかへ
 ここじゃない どこかへ・・・


今夜もひとりギターを弾いて、この歌をうたう。
涙を流しながら、そんな自分に苦笑しながら。


「ウィスキー」 やなぎ

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