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2015.05.31

かじる女

かじる女


朝日が差し込む台所で
人参を手にする
女、ひとり。

マメな主婦なら
まず、皮をむく。
ずぼらな女は
人参の皮を
むいたことがない。
たわしで洗って
ザクザク切って
鍋に放り込む。

そして、
まな板に残った人参のヘタを
三本指でつまみあげて
かじる。

女の口の中で
コリコリと音を立てて
粉々に砕かれる
人参のヘタ。
にんまりと緩む女の頬。

人参は捨てるところがない、
というのが
女の持論。

6時のニュースを背中で聞きながら
台所に立つ女、ひとり。

夕食の支度のさなか、
青々と茹で上がったブロッコリーを
ザルにあけ、
薄緑色の茎をつまんで
かじる。

マメな主婦なら
皮をむいてピクルスにでもするであろう
ブロッコリーの茎を
ずぼらな女は
手でつまんで、
かじる。

硬い皮に歯を立てれば
じんわりと口に広がるほのかな甘味。
にんまりと緩む女の頬。

女の家の者達は
ブロッコリーの茎を
見たことがない。
食べたことがない。

夜更けの台所。
ぽつんと光る明かりの下に
女、ひとり。

鍋の蓋を取ると、
鍋底の出汁昆布を箸で持ち上げ、
幅広の昆布を
かじる。

ずぼらな女は出汁を取らない。
ポキポキ折って並べた出汁昆布の上に、
大根の輪切りを並べ、
水を入れて、煮る。
箸で切れるほどに柔らかく煮えた大根に
ごまだれだの、みそだれだのをかければ
立派なおかず。

そして、夜更けの台所。
空になった鍋底の出汁昆布を
箸でつまみあげて、
かじる。

マメな主婦ならば
佃煮にでもするであろう出汁昆布を
ずぼらな女は
そのまま
かじる。

幅広の昆布に歯を立てて
ゆっくりと噛み切る。
じんわりと広がる昆布のうま味。
にんまりと緩む女の頬。

寝静まった家に
一つだけ灯した台所の明かりの下で
今夜も、女は
昆布を
かじる。

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