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2015.06.13

時計屋にて

朝、目が覚めたら
必ず真っ先に目を近づけて見る
手首にはめた腕時計。

その腕時計の針が
あり得ない時刻を指したまま
止まっていた。

これは困った。
片時も、寝る時でさえも、
腕時計を外せない
弱視の私。

少しでも早く電池を交換しなければ。

午前中、早稲田の街へ。
用事を済ませて家に帰る道すがら。
小さな時計屋さんを見つけた。

ガラス扉に

「電池交換うけたまわります」

と、張り紙がある。

池袋の量販店まで行かずとも
ここで電池交換してもらえるならば、ありがたい。

ガラスの扉を押して中に入ると、
薄明るいお店の奥には
店主とおぼしき初老の男性が一人。

「電池交換をお願いしたいのですが」
「はい。」

年季の入ったショーケース越しに腕時計を受け取ると、
店主は作業台に向かい、
黙々と仕事にかかる。

白いレースのカバーをかけたソファ。
てんてんばらばらの時刻を指す二十あまりの掛け時計。
飴色の文字盤のローマ数字の柱時計。
テレビもラジオも聞こえない。
ひっそり静まり返った店内。

こんなにたくさん時計があるのに
時が止まってしまったような店の中。
けれども、この店は、
時の流れに取り残されているわけではなかった。
黙々と作業する店主の背中を眺めながら待つ間に、
ガラスの扉が開いて、
一人、また一人と、お客が入ってくる。

「電池交換お願いします」
「はい。」

淡々と繰り返されるやりとり。
黙々と作業を続ける店主。

大隈講堂にほど近いその店は、
早稲田界隈の人々の腕時計の電池をまかなう
心強くも重宝な時計屋さんだった。

「1000円いただきます」

再び動き始めた愛用の腕時計と一緒に渡されたのは
ピンク色「電池交換サービスカード」。

5回分のスタンプを集めて、
6回目の電池交換を無料サービスでお願いする日まで
我が愛用の腕時計は達者で動いてくれるだろうか。
この小さな時計屋さんは続いていてくれるだろうか。。

扉を開けて外に出ると、
薄日さす昼下がり。
学生達の声が飛び交う道を
都電早稲田駅目指して歩き始めた。

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