「碓氷峠を歩いて超えたいんだけどさあ」
旅友ヒロミが言いだした。
碓氷峠といえば信濃川水系と利根川水系の分水嶺。
峠に立って、「こっちに降る雨は太平洋に、あっちに降る雨は日本海に流れるのであーる!」と感慨にふけるのはロマンチックに違いない。
行く、行く、一緒に行く!
「けっこう険しい山道らしいよ」とヒロミ。
え? 険しい山道?
わたしゃ、山登りは大っ嫌いなんだよねえ・・・
「まあ、本格的な登山ってわけじゃないから何とかなるんじゃないの?」
そうかなあ・・・
「釜めしはあるし、釜アイスってのもあるんだよ」
釜アイス!!! そりゃ、行かねば!
「いきなり碓氷峠を越えるのは無理だから、何度かハイキングで山道の練習しようよ」とヒロミ。
なるほど。備えあれば憂いなし。
「JR東日本の”駅からハイキング”企画で、五日市ハイキングってのに行くから、一緒にどう?」
うん、うん、行く、行く。
涼しくなったからウォーキング再開したいしね。
・・・・・・・・
9月15日(月祝)。
新宿発午前9時9分の青梅特快に乗り込んだ。
碓氷峠を越えて中仙道踏破を目指すヒロミは、足元をおニューのトレッキングシューズでばっちり決めて現れた。
峠の釜アイスを夢見てハイキングの練習に来たももこのリュックにはおにぎりとゆで卵。
10時11分。武蔵五日市駅到着。
あ~ら、駅前にはこんなかわいい自販機が♪

観光案内所で”駅からハイキング”の地図をもらう。
駅からハイキングというのはJRがやっているハイキングイベントで、各地の駅から魅力的なハイキングコースを用意。参加するとポイントが溜まったり、お店のサービスがあったりというウォーキング企画。
今回のコースは武蔵五日市駅からあちらこちら見学しながら二駅隣りの武蔵引田駅まで、アップダウンの多い約8キロのコース。
歩くぞ~ 歩くぞ~
目指せ、碓氷峠!
目指せ釜アイス!
ルーペで地図を見て、
単眼鏡で目標の建物を見て
駅前道路を歩き出す。
最初に目指すは五日市郷土館。
弱視のヒロミと弱視のももこは、ルーペを握りしめて地図を読む。
「五日市警察署の信号で右に曲がるんだ!」
信号をみつけるたびに、弱視のヒロミと弱視のももこは、単眼鏡で信号の表示を読む・・・はずが・・・
「あれ、きれいな花だねえ!」ヒロミが単眼鏡で見つけたのは警察署入り口の信号じゃなくて、街路樹の花だった。
どれどれ?
ももこも単眼鏡でウォッチング。
ほんとだ、きれいな花だ。
何の花?

街路樹にはかわいい札がかかってた。

百日紅って書いてある。
えーと、これは、たしか・・・「さるすべり」って読むんだよね?
携帯で「さるすべり→変換→百日紅」
正解。
郷土館へ続く道は見事な百日紅並木道なのであった。
小学校前・・・出張所入り口・・・高校入り口・・・と信号を一つ一つ単眼鏡で確認し・・・
あった、あった!
警察署入り口の信号!!
道路を渡って右に曲がって道なりにぐるりと歩いていくが・・・
あーらま。郷土館は祝日はお休みだって。
「いつになったらハイキングになるんだろう?」とおニューのトレッキングシューズのヒロミはブツブツ言い始める。
これから秋川渓谷に降りるみたいだから、そしたらハイキングっぽくなるんじゃないの?
出張所入り口の信号で今度は左に曲がり、坂道を降りていく。
けっこう急な下り坂。
だんだん、ハイキングっぽくなってきた~
歩くぞ~
歩くぞ~
目指せ、碓氷峠!
目指せ、釜アイス!
「ちょっと、見ていかない?」
突然、おじさんに呼び止められた。
見れば、そこは立派な神社。
「こっち、こっち!」おじさんはどんどん先に立って境内を歩いていく。
訳もわからずついていくヒロミとももこ。
「この中の神輿を見たいでしょ!」
と言いながら、おじさんは収納庫の引き戸をがらがらがらっと開ける。
すると、中には立派なお神輿が4台。
「この神輿、何角形に見える?」

何角形って、四角じゃないの?
「六角神輿だよ!」おじさんは得意気に解説。
「これが大人用の六角神輿。その隣が中学生用。その隣が小学5,6年用。いちばん右が子供用だよ」
へえ! 年齢別お神輿というのは初めて見た。
それにしても立派なお神輿ですねえ、おじさん!
「9月末が阿伎留神社の祭礼だからね。あんたらも来るんでしょ!」
阿伎留神社!!!
ああ! あきる野市の「あきる」って「阿伎留」って書くのか!
おじさん、立派なお神輿を見せてくれてありがとう!
で、川はどっち?
「あっちだよ」
ということで、「あっち」に向かってどんどん坂道を降りていく。
渓流の音が聞こえてくる。
どんどん、どんどん、坂を下りていくが・・・
なんだか方向が違うんじゃない?
私達、武蔵引田駅方向に歩くんだよね?
この道、反対に行ってる・・・
坂道を途中まで上って戻り、正しいと思われる方向に細い道を歩いていくといつしか川は遠くなり、普通の道路に出てしまった。
あわや、遭難。
といってもそこにはお家が並んでいる。
たまたま家の前にいらしたおじさんに尋ねてみた。
あのー、川はどこですか?
「川? ああ、秋川河川公園ね。 この道をまっすぐ行くと、田んぼの先に、歩み橋っていう、こういう(と言ってアーチの形を両手で作る)橋があるから、それを渡ると河川公園だよ。気をつけてね!」
ありがとう、おじさん!
教わった通り、田んぼや畑の中を通るとアーチ型の歩み橋発見。

橋の下の河川敷では、皆さん、バーベキュー真っ最中。
「なんか、全然ハイキングっぽくないじゃん! このトレッキングシューズは何のため?」ヒロミがぶつぶつ言いだす。
振り出しの五日市駅に戻ってトイレを拝借したのちに、ヒロミとももこの作戦会議。
「今日の駅からハイキング企画はハズレだね。全然面白くないよ。ほとんど普通の道路を歩くだけだよ。」
とりあえず、どこか静かなところで、おにぎり食べようよ。
空腹時には冷静な判断はできないものさ。
またまた郷土館方向へ道路を歩き、郵便局の先を左に折れて、坂道を降りていくと、またまた渓流の流れが聞こえてきて、川辺に降りる細い下り坂を発見。
「スズメバチ注意!」という立札におびえつつも降りてみたら、素敵なランチスポットに到着♪
渓流を渡る風に吹かれながら、青森土産の行者ニンニク入りおにぎりとゆで卵で昼ご飯。
いやいやいやいや~いいところじゃあーりませんか♪

おにぎりとゆで卵でお腹を満たされ、渓流の川音と涼しい風に心を満たされたヒロミとももこはご機嫌と理性を回復。ハイキングコース図を確認。
JRさん指定のコースはほとんど普通の道路を歩くらしい。
このコースはもう、やめよう。
適当に川沿いを歩いて五日市駅に戻って帰ろうか。
すぐそばの佳月橋で対岸に渡って、川沿いの細道をのんびり散策。道端に忘れられたようなお墓があったり、土手に見事なオレンジ色の花が群生していたり。

小和田橋でまた川を渡り、駅前道路に出て喫茶店にて3時休憩。
そろそろ帰ろうか・・・五日市駅に向かう二人だったが・・・
碓氷峠越えに備えて歩く気満々でやってきたヒロミとももこは、なんだか物足りない。
「駅からハイキングコースの終点の、武蔵引田駅近くの近藤醸造っていう醤油屋に行ってみたいな。でも、二駅電車に乗るのももったいないし。歩けないかなあ」とヒロミ。
武蔵引田まで二駅歩くの?
これから?
山手線の駅じゃないんだからさ。
ここの二駅はけっこう距離があると思うよ・・・
喫茶店の並びの小さなビルの入り口前でiPadのグーグルマップとにらめっこ。
そこへ、そのビルのおじさんらしき方がバイクで帰ってみえた。
「すいません、武蔵引田駅に行きたいんですけど」
「そこの駅から電車ですぐだよ」
「いえ、歩いて行きたいんです」
「歩いてねえ・・・そしたら、この先の○○で左に曲がって線路をくぐって、○○の角をどーして、こーして、あーして、こーして・・・」
そんな長い道順、覚えられない・・・
「大悲願時に寄るといいよ。萩の花が有名だから」
萩ってどんな花だっけ?
花おんちのヒロミとももこ。
だけど、萩はたしか秋の七草。咲いているかもしれないね。
大悲願寺に行ってみます。
ありがとう、おじさん!
駅からハイキングの案内図はもうリュックにしまって、iPadのグーグルマップを見ながら歩き出す。
駅前道路が五日市線の線路にぶつかる手前の細い道を右に入り、線路を左にみながらてくてく。
さっき小和田橋のところで見たオレンジ色のお花を摘んでいるおばさまに尋ねてみた。
これは何と言う名前の花ですか?
「アカバナコスモスですよ。私はもっと淡い色のコスモスが好きなんだけど」とおばさん。
踏切を渡って間もなく、大悲願寺に到着。
境内を歩いていくと・・・咲いてる、咲いてる、小さな白いお花がいっぱい。
手入れの行き届いた萩のお庭がありました。

「大悲願寺に寄るといいよ」と教えてくれたおじさんのおかげで、趣のあるお花見ができて満足。
大悲願寺を出て、通りがかりのお家の庭先に立派な実をつけたブドウの木を見つけたりしながら、のんびり歩くこと10数分。
五日市駅の隣駅、武蔵増戸駅に到着。
碓氷峠越えの練習ハイキングにはあまりならなかったけれど、ゆきあたりばったり、のんびりと25621歩のウォーキングの一日になりました。
「今度は御岳山に行こう。あそこなら本当に練習になるよ!」
碓氷峠越えを目指して、ヒロミのハイキング練習はまだまだ続く・・・
山登り大嫌いのももこは、どこまでついていけるだろうか・・・
でも、釜アイス、食べたいよねえ~