2016.06.30

モモコの迷推理

急須のふたが、ない。
テーブルの上にも、下にも、ない。
食器棚にも、引き出しにも、ない。
台所の床を隅々まで手さぐりしても、ない。
念のためにゴミ箱の中も手さぐりしたけど、ない。

「なんで、ふたがないの?」
「知らないよー!」

朝から母娘で口げんか。
軽い口げんかは、ママの脳リハビリにならなくもないが・・・

ふたのない急須は、
具合の悪いこと、この上ない。
急須を傾けるとお茶っ葉がこぼれ出す。
だいいち、ふたなし急須では
せっかくのお茶が味も素っ気もなくなってしまう。

ふたなし急須に不自由すること数日間。
そろそろ観念して、新しい急須を買おうか。
急須の内側の小さい茶こしならば、
100円ショップで数種類のサイズのものが手に入るが、
急須の「ふた」は売っていないもの。
今日、買い物に行ったら、新しい急須を買ってこよう。

そんなことを考えながら、庭に出た。
伸び盛りのゴーヤと朝顔のプランターに朝の水やり。
ポーチの向こうの水道に向かうと・・・

チリン

何かを蹴とばした。

うん?

おもむろにしゃがんで足もとを見る。

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あ!

この数日、探し続けていた急須のふたではないか!

ああ、よかった!
新しい急須を買う前に見つかって!

それにしても・・・
なんだって、急須のふたが庭のポーチに落ちていたのか?
その謎を解かないと、すっきりしない。

立ち上がって見回すと・・・あれ
ムスメがクーラーの室外機の上に置いている
水色の小さなじょうろが
水道の蛇口の下にある。

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ということは・・・
ゴーヤと朝顔のプランターに
ママがお水をやってくれていたということか。

そして、今度は上を見る。
“トラノオ”という名の観葉植物の鉢が二つ、
宙に浮いているのだが・・・

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その鉢の土を指で揺れると、湿っている。

ママはトラノオにも水をやってくれたのか。
しかし、ムスメの頭の高さに浮かぶ鉢に
ママがじょうろで水をやるのは不可能だ。

あ、なるほど!
ここで急須が登場だ!
ママは、急須に水を入れて、
家の中からトラノオの鉢に水をやってくれたのだ。

その時、ふたが落ちたのに気付かずに、
そのまま急須を台所に戻したのに違いない。

急須のふた失踪事件の謎を解決したところで、
拾い上げたふたを台所で洗う。

これで、今日からまた
平和に美味しいお茶が飲めるというものだ。

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2016.04.29

満腹ダイエット、2日目

4月28日、木曜日、雨。

お財布の中には643円。
今日はどこにも出かけない。

朝ご飯。
ママは柔らかご飯。
ムスメは玄米。
ひきわり納豆を半分こ。
ワカメと高野豆腐の味噌汁。
ごぼうと人参の煮物。
カカオ72%チョコを一つ。

お財布の中には643円。
今日はどこにも出かけない。

昨日持ち帰った仕事を片付けたら、
傍らのギターを抱える。
雨の日になぜか、
Fly Me To The Moon
速いアルペジオでもつれる指に、
ムキになって何度も弾くうちに1時過ぎ。

お昼は冷やご飯入りキャベツスープと
小豆入りカスピ海ヨーグルト。
カカオ72%チョコを一つ。

お財布の中には643円。
今日はどこにも出かけない。

こんな日は
物好きの虫が騒ぎ出す。
どうでもいいようなエピソードを
大真面目に綴ってみたり、
いやいや、その前に、
大事なたんぽぽライブの段取りを
音楽仲間と打ち合わせたり。

そしてまたギターを抱えて
ハッピー・カレーライスを反復練習。

お財布の中には643円。
今日はどこにも出かけない。

晩ご飯はどうしよう?
冷蔵庫を開ける。
作り置きのかぼちゃのサラダに
ご飯と牛乳を加えて、かぼちゃの洋風雑炊。
卵焼きの具は何にしよう・・・そうだ、ひきわり納豆がいい。
せっかくのアイデアなのに、焦がしてしまって残念な卵焼き。
そして、冷蔵庫に常備のトマト缶天と、キャベツの寒天寄せで、
そして、カカオ72%チョコを一つずつ。

お財布の中には643円。
今日はどこにも出かけない。
ギターをたくさん弾いた
雨の木曜日。

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2016.04.27

満腹ダイエット、一日目。

「明日の夜に会議が入りました」と
昨日の夜に職場からメール。
慌ててママの晩ご飯用の宅配弁当をネットで予約。

そして本日。
ママと二人の朝ご飯は、
思いがけなく柔らかく炊けた大豆玄米ご飯と、
豆腐と菜っ葉とワカメの味噌汁と、
人参、ごぼうと昆布の煮物。

ママはデザートにりんごを一個すりおろし。
娘はデザートに山盛りのカスピ海ヨーグルト。
そして、最近流行のボケ防止のおまじない、
カカオ70パーセントのチョコレートを
母娘で仲良くひとかけらずつ。

仕事の日の昼食はスープ弁当。
本日のポットの中身はキャベツとジャガイモのスープ。
一口、一口、スプーンですくっては口に運んでいるところに
「本日の夜の会議はキャンセル」という知らせ。

午後の仕事をのろのろとこなし、
定時で「お先に失礼します」。
時計を見れば午後6時。
今ごろママはテレビの前に陣取って、
宅配弁当を食べてることだろう。

それならば、たまには一人ディナーと洒落てみたいが、
月末のお財布はあまりにも軽い。
どうしたものかと思案しながら歩き出す。

それにしてもお腹がすいた。
渋谷駅への近道に通る大学キャンパスのほとりの
人影のないベンチに腰かけて、
夜の会議前の腹ごしらえにとリュックに忍ばせてきた
玄米大豆ご飯のおにぎりをほおばる。

お腹が落ち着くと、もうひと歩き。
渋谷駅から都バスにに乗って、
うつら、うつらと舟をこぐ。

あっと目を覚まして降りる、
池袋から二つ手前の停留所。
そうだ、晩ご飯は何を食べよう?
冷蔵庫にはもやしがある。
久しぶりに大好物のサッポロ一番みそラーメンを買って帰ろうと、
馴染みのスーパーに寄ってみる。

あ、ママの朝食用りんごが6個で498円、買わなくちゃ。
あ、ママのおやつ用果物ジュースを買わなくちゃ。
あ、ターツァイが100円だ。
ジャガイモと一緒に柔らかく煮て、
緑色の寒天寄せを作ってみたら、
ママと一緒の朝ご飯のおかずにいいんじゃない?

カゴを眺めて笑ってしまう。
だって、ママ用食材ばかり。
子育てしていたママも、仕事帰りの商店街で、
家族のことばかり考えて、買い物していたのだろうか。

それにしても、どうする、ムスメの晩ご飯?
大好物のサッポロ一番みそラーメン?
いやいや、さっき大豆玄米おにぎりを食べたばかり。
ピリッと辛口チョリソーを一袋買って、
すっかり暗くなった雑司が谷の道をてくてく歩く。

玄関のドアを開けてみれば、
宅配弁当をきれいに平らげたママは
NHKテレビの「ガッテン!」を見ながら上機嫌。

腹ぺこのムスメは台所に直行。
フライパンにニンニクとチョリソー、もやしとターツァイを
放り込んでジャジャっと炒めりゃ、出来上がり。

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デザートにはボケ防止のおまじない、
カカオ70パーセントチョコレートをひとかけら。
お茶碗を洗いながら
明日のママのおやつのフルーツゼリーを作る。

ママ、お風呂が沸いたよ、と声かけて、
熱い紅茶のカップを持って二階に上がるムスメ。
「満腹ダイエット」の一日の締めくくりに、
今夜はゆっくりラジオを聞こう。

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2016.04.10

甘茶でいっぷく

4月10日、日曜日。
お墓参り。

母と二人で、雑司が谷の墓地の小道をえっちら、おっちら。
「今日はお彼岸かい?」と母。
「お彼岸は終わっちゃったよ」と娘。
「じゃあ、なんでお墓参りに行くんだい?」と母。
「お父さんの命日でしょうが」と娘。
「ああ、そうかい?」と母。

都電で5つ目の新庚申塚駅から
えっちら、おっちら歩いて白泉寺。
お線香とお花を供えて、お墓をお掃除。
汚れた湯呑を丁寧に洗う母。

「今日はお彼岸かい?」と母。
「お彼岸は終わっちゃったよ」と娘。
「じゃあ、なんでお墓参りに行くんだい?」と母。
「お父さんの命日でしょうが」と娘。
「ああ、そうかい?」と母。

境内のテーブル席でひと休み。
4月8日はお釈迦様の誕生を祝う灌仏会だった。
魔法瓶の甘茶をいただく。

そこへ、野球のユニフォーム姿の少年達が自転車でやってきた。
小学校5年生ぐらいだろうか。
門に自転車を置いた3人の少年たちは、
小さなお釈迦様に柄杓で甘茶を注いて、手を合わせる。
そして、テーブルに着くと魔法瓶から甘茶を湯呑に注ぐ。

「あちちち」
「俺、ちょっとでいいんだけどなあ」
「甘いよ、これ」
「甘茶だもん」
「もう一杯。俺、お茶、好きなんだよなあ」

すると、車でお墓参りにいらしていたらしい女性に声をかけられた。
私を少年達の保護者だと思われたようだ。

「門の前に自転車を停められると、
 車が出せないんですけれど・・・」

「あ、自転車が通り道を塞いでしまってますね・・・」と私が答えている間に、
少年達はさっと立ち上がり、
自転車を横に移動させると、
またテーブルに戻って甘茶をすする。

日曜の朝。
野球の練習をして、お寺でお釈迦様にお参りして、
甘茶で一服する、ちょっと渋くて素敵な少年達に、
「バイバイ、またね」と手を振る母。

帰りも都電に乗りましょう。

「今日はお彼岸かい?」と母。
「お彼岸は終わっちゃったよ」と娘。
「じゃあ、なんでお墓参りに来たんだい?」と母。
「お父さんの命日でしょうが」と娘。
「ああ、そうかい?」と母。

雑司が谷の墓地の小道を
十数回の小休止を繰り返しながら
えっちら、おっちら我が家に近づく母と娘。

「あら、おかあさん、お墓参りですか?」

墓地の小道の奥から、
白黒の猫さんが見守っていた。

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2016.04.04

公園で

4月2日、土曜日、朝。
内科医院の待合室。

「何しに来たの?」と母。
「お薬もらいに・・・」と言いかけて
娘は気づく。

何しに来たのか、わからないほど
今日も元気でよかったよねえ、お母さん。

診察が済んでお薬をもらったら、近所の小さな公園へ。

「あたしゃあ、あれに乗りたい!」と母が指さしたのは・・・

シーソー。

早々とスタンバイした母に
「早くしなさい!」と急かされて、
しぶしぶシーソー上の人になる娘。

ぎったん、ばったん。
ぎったん、ばったん。
ぎったん、ばったん。

重量級の母と娘のシーソーゲーム。

見上げれば、花ぐもりの空。

ぎったん、ばったん。
ぎったん、ばったん。
ぎったん、ばったん。

「お尻が痛いよ。もうおしまい!」
音を上げる娘。

「どっこらしょ、よっこいしょ、どっこらしょのしょ・・・」
ありったけの「どっこらしょ」のバリエーションを繰り出しながら
シーソーから降りる母。

ぎったん、ばったん。
ぎったん、ばったん。
ぎったん、ばったん。

母と娘のシーソーゲームみたいな日常が、
あと何年続いてくれるだろうか。

見上げれば、うっすら白い花びらに埋まる、くもり空。

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2016.03.04

力尽きたか・・・

3月4日、金曜日、晴れ。

今週末、娘は北の国へお出かけ。
土曜と日曜のママのお留守番体制を整える。

セブンイレブンの宅配弁当予約→完了。
バナナにみかん、苺にヨーグルトなどすぐ食べられる食糧の買い出し→完了。
(ついでに娘の旅の友の調達→完了)。
「留守中のお願いメモ」と二日分のお薬を、近所に住む姉に渡して留守を頼む→完了。
ママの好物のサツマイモ+りんご入り電気がま蒸しパン調理→完了。

そうだ。ガスファンヒーターのお手入れをしておこう。
留守中に「フィルター清掃」ボタンが点滅して停まってしまったら大変だから。

ついでに、ママのテーブルの上もちょっとはお掃除しようと、テーブルに手を触れたとたん・・・

脚がぱかっと外れて、三本脚になってしまった。

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これは困った。

外れた脚を観察する。
テーブル本体の穴に太いねじを通して、そのネジを脚側の穴にねじ込む仕組みなのだが、
ネジは曲がっているし、脚側の穴も広くえぐれてしまっている。

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座椅子に座って、ここだけの話だけど(笑)両足をテーブルの上に乗せてテレビを見るのが、ママのお気に入りのリラックスタイム。
そして、立ち上がる時は、両手をテーブルについて、全体重(重量級~)をテーブルにかけて、

よっこらしょー!

と立ち上がる。

長年の「よっこらしょー!」に、さすがの頑丈なテーブルも力尽きてきたようだ。

とりあえず応急処置をせねば。
外れた太いネジをテーブル本体の穴に通して、脚側の穴にねじ込んで、締められるだけ締めて、4本足に戻す。

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そして、外れた方の脚が反対側になるようにテーブルを180度回転させる。
反対側の脚も多少ぐらついているけれど、外れた脚よりは頼りがいがありそうだ。

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テーブル殿。
申し訳ないが、娘の留守中、何とかママの体重を支えてやってくれたまえ。

テーブルを買い替えないといけないな。
従来通りの座卓+座椅子がいいのだろうか。
それとも、寄り掛かってもびくともしない頑丈な椅子とテーブルにした方が、ママは楽だろうか。

来週は家具屋さん巡りをすることになりそうだ。


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2016.01.31

とろーり溶けてる

去年の夏の終わりの頃、
巣鴨とげぬき地蔵にお参りに行った折に、
お地蔵さまの横手の露店の八百屋さんで
鮮やかなオレンジ色のかぼちゃを見つけた。
「赤皮かぼちゃ」という加賀野菜だという。
鮮やかな色に惹かれて買って帰った。

レシピを検索。
トマトと赤皮かぼちゃの無水カレーというのを見つけた。
レシピの材料欄には「ハウスバーモントカレー」とある。

カレーライスの歌を作って歌うほどにカレーは私の大好物。
20年ほど前、バングラディシュのカレーに出会って以来、カレールーを買わなくなった。
スパイスをあれこれ揃えては、自分流のカレーを作った。
家じゅうにスパイスを炒める香りが広がるカレー作りは、何とも幸せなひと時。

そんな「自己流スパイス派」としては、「ハウスバーモントカレー」に抵抗がある。
カレールーを使うのか・・・しかも「ハウスバーモントカレー」・・・

でも、初めて買った赤皮かぼちゃを美味しく食べてみたい。
ここはレシピ通りにハウスバーモントカレーを使ってみよう。

何年かぶりにカレールーを買った。
もともと辛口が好みだから、「ハウスバーモントカレー」を買うのも初めてだったかもしれない。

実も皮も柔らかな赤皮かぼちゃとトマトをたっぷり入れて、
「ハウスバーモントカレー」で味付けした無水カレーが出来上がり。

「ご飯ですよ~」

母を呼んで、カレーライスの晩ご飯。
赤皮かぼちゃとトマト、そこに“りんごと蜂蜜とろーり溶けてる”ハウスバーモントカレーを投入した無水カレー。

とろりと甘い野菜のやさしいうま味がカレー味と混然一体となって、口に入れるたびに顔がほころんでしまう。

あ・・・

これは、お母さんのカレーの味。
子供のころ、お母さんが作ってくれたカレーの味。

カレーライスの日は、台所のカレーの匂いに、晩ご飯が待ちきれない。
茶の間のこたつテーブルにカレーライスをよそったお皿が並べられる。
お皿の横には、水を入れたコップにカレースプーンが立っていた。

とろりと煮崩れたジャガイモ。
柔かな玉ねぎと人参。
よくよく探さないと当たらない豚肉。
それらをやさしく包む甘口のカレーソースを暖かいご飯と混ぜて、スプーンを口元に持ってくると、
鼻をくすぐるカレーの匂い。

美味しくて、美味しくて、どんどん食べたっけ・・・


そんなお母さんのカレーライスを思い出しながら、
夏の終わり。
母と二人の晩ご飯。
赤皮かぼちゃのカレーを、「美味しい、美味しい」と食べてくれる母を見ながら
心の中で謝った。

ごめんね、お母さん。
私が作るカレーライスは、お母さんには辛すぎたんだね。
いつも残さず食べてくれたけど、ずいぶん無理してたんだね、きっと。
今日から、うちのカレーはハウスバーモントカレーにするよ。
甘くて美味しいもんね。

♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡

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1月最後の土曜の夜。
今夜の晩ご飯はカレーライス。
赤皮かぼちゃは手に入らなかったけれど、
かぼちゃとトマトと「ハウスバーモントカレー」を煮込んだ甘口のカレーを、
「美味しい、美味しい」と言いながら食べる母娘の晩ご飯だった。

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2015.12.31

母娘で夜の東京タワー

外がすっかり暗くなった午後5時半。
「東京タワーに行きませんか、お母さん?」
「行きますとも、行きましょう」

往復タクシーでおもてなししたいところなれど
吹けば飛ぶような娘のお財布ゆえ
エコノミーコースでご勘弁を。

雑司が谷のお墓を抜けて東池袋。
都電に乗って大塚駅。
切符を買って山手線。

隣りに座った坊やが自慢げに見せびらかしてくれるのは
赤とピンクのツートンカラーの紙風船。
膨らませてはポンとつき、
両手で受け止めて、またふくらます。
「上手ねえ!」と手を叩いてほめる母に
得意満面の男の子。
母のほっぺたを触って

「おばあちゃんのほっぺ、つめたーい!」
「ボクのお手手はあったかいねえ!」

新宿、渋谷、品川と山手線を半周して
田町駅の改札を出てみれば

「あら、きれいじゃないのー!」

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一面の緑の花畑の傍らで
ギターを弾いて歌うお兄さんに
(頑張れ、ストリート青年!)と
心の中でエールを送りつつ
タクシーに乗り込む。

「東京タワー? 何回も行ったよ」と母は言うけれど、
タクシーの窓から見えるオレンジ色のタワーに
「あらー、きれいだねえ!」を連発。
夜の東京タワーは初体験だもんね。

タワーのふもとのイルミネーションの森に
「花が咲いたみたいだねえ!」と、大はしゃぎ。

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母は切符。
娘はパスポート。
エレベーターで一気に展望台へ。
暗闇に浮かぶ東京の夜景に母は釘付け。動かない。

マザー牧場カフェでコーヒー休憩。
ふもとの光の森をもう一度眺めながら
「ここは、どこなんだい?」と母が聞く。
「ここは、東京タワーだよ」と答えながら
切なくて悲しくて、帽子の影でこっそり涙をこぼす娘。

タクシーで田町駅。
切符を買って山手線。
幼稚園生のように窓に顔をくっつけて、
流れていく夜の街並みを見つめるママの横顔。

山の手線を半周したら目白駅で降りましょう。
人影まばらなホームから
上りのエスカレーターで改札口へ。

夜のお出かけも悪くない。
今度は浅草寺のライトアップを見に行こうか。

と、エスカレーターに大はしゃぎのママの背中を見ながら考える。

と、その時・・・

カラン・コロン・カラン・コロン・コロコロコロ

と音がして、

「あれあれ、あれあれ、どうしよう!」

と、ママの大声。

ママの口から飛び出した入れ歯が
下りのエスカレーターを転がっていっちゃった!

コントみたいな展開に母も娘も大笑い。
幸い誰も乗っていない下りのエスカレーターを
トン、トン、トンと、いつになく調子よく降りていった母が、

「あった、あった!」と指差す先に落ちていた入れ歯を
娘が拾い上げて母に渡すと

あ!

という間に再装着。

お腹は丈夫みたいだから、まあ、いいか。

目白駅から都バスに乗って、三つ目の停留所。
雑司が谷の坂道を下って、のぼって、
我が家に着いたのが9時半。

「明日はどこに連れてってくれるの?」と、母が聞く。
「明日は大掃除。自分の部屋は自分で掃除するんだよ」と娘。
「掃除なんか、いいよ」と母。

そう? 掃除なんか、しなくていい?
お母さんがそう言うのならば、
今年も大掃除は省略して、
大晦日の明日も遊びに行こうか、お母さん?

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2015.10.25

買い物なんかしなくていいんだよ!

秋晴れの土曜日。
母と二人で巣鴨のお地蔵さまへお出かけ。

雑司が谷墓地を抜けて都電の駅へ向かう。
このところ調子よく歩いていた母だが、今日はだいぶ腰が痛いらしい。
30歩あるくとひと休み、の繰り返し。
墓地の中はどこでも座り放題(ちょっとお行儀悪いけど・・・)でありがたい。

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庚申塚駅で都電を降りると、地蔵通り商店街には露店が並んでいる。
今日は「四の日」。
とげぬき地蔵の縁日だ。

古着や瀬戸物や佃煮や柿といった店をのぞきながら歩く。

電信柱を見つけては片手をついて腰を伸ばして
「遠いねえ」とため息をつく母。

途中でいつもの乾物屋に寄り道。
一袋300円のワカメと一袋500円のしらす干しを買う。
我が家の朝ご飯に欠かせない二点セット。

「おまけしとくからねー。いつもありがとう、おかあさん!」
顔なじみのおじさんが朗らかに声をかけてくれる。

「ちょっとそこで座らせてちょうだい」
乾物屋の脇の路地の反対側に建つビルの横に小さな植え込みを見つけた母は、低い縁石によっこらしょと腰をおろす。
私も母の隣りに腰をおろしてひと休み。

そこへ、乾物屋のおじさんが小走りにやってきた。

「そんな所に座ってないで、うちの店に来てよ! 椅子があるから!」
おじさんは母の腕を取って立たせると、店の奥の座布団を敷いたベンチに連れていってくれたので、ありがたく座らせていただいた。

よかったねえ、お母さん。

そこへ・・・「めかぶ茶はいかがですか?」

若い店員さんから試食用の紙コップを差し出された。
歩き疲れて、喉も乾いていたところ。
ほんのり塩味のきいためかぶ茶を美味しくいただいた。

「おいくら?」
「350円です」
「一袋、いただくわ」

母が財布を出そうとしていたその時に、さっきのおじさんが飛んできた。

「買い物なんかしなくていいんだよ!」

おじさんはわかっているのだ。
母が、月に一度はお地蔵さまにお参りに来ていることを。
母の腰がどんどん曲がってきていることを。
そして、今日はことのほか歩くのが大変そうなことを。

おじさんがわざわざ路地を横切ってやってきて母の腕を取ってくれた時、目頭が熱くなった私は、

「買い物なんかしなくていいんだよ!」

この言葉に、こっそり涙をこぼした。

次回から、とげぬき地蔵に行く時におじさんのお店で買うものが一つ増えた。

300円の生ワカメと、500円のしらす干しと、350円のめかぶ茶。

だから、来月もお地蔵さまにお参りに行こうね、お母さん。

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2015.03.07

出た、出た、声が

3月7日、土曜日。
朝、起きたら、前夜までの無声モモコ状態から
風邪ひきの青江美奈程度の声が出るようになっていた。

歌はまだ歌えないが、とりあえず喋ることはできる。
ありがたい。

声を失くしたこの一週間、最も不自由したことは耳の遠いママとの会話だった。

朝、ママを起こす時から悪戦苦闘。
「ご飯ですよ~」の一言が言えない。
息を大きく吸って、ありったけの息を喉に集めて一気に吐き出して、

「ごはん!!!」

と一言叫ぶだけで精いっぱい。

耳元で突然、おじさん声で叫ばれたママはびっくり仰天。
「なんだって、朝からビックリさせるんだ!」とゴキゲンナナメ。

こんな調子だから日常会話などできるはずもなく、この一週間、ママもムスメもむっつり黙って朝ご飯、夕ご飯を食べていた。

今朝、起きてみたら、風邪ひきの青江美奈みたいな声だが、とりあえず会話はできる。

「ご飯ですよー」といつも通りママを起こす。
「お茶入れてくださいねー」とママにお願い。
「いただきまーす」と言いながら、1パックの納豆をママとムスメではんぶんこ。

今朝の母娘の話題は、もっぱらテーブルの上の水栽培の大根の花。
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「ほら、お母さん、大根の花が咲いたよ!」とムスメ。
「あら、ほんとうだ!」とママ。
「つぼみが黄色いから黄色い花が咲くかと思ったら、薄紫の花なんだねえ!」とムスメ。
「だいこんの花なんて、何十年ぶり、何百年ぶりに見たねえ!」とママ。
「何百年ぶりは大げさじゃないの? 仙人じゃないんだからさあ」とムスメ。
「わっはっは」とママ。
「わっはっは」とムスメ。

朝ご飯の食卓に、ママとムスメのとんちんかんな会話が復活。
お喋りのスパイス付きの朝ご飯に、ママはすっかり上機嫌。

「だいこんの花っていう歌があったねえ」とママ。
「へえ? どんな歌?」とムスメ。
「だいこんの~ しろい花~ お前のような~~~」ママは、テーブルを両手で叩きながら歌い出す。
それは「くちなしの花」じゃなかったっけとムスメは思ったが、ゴキゲンなママの叩き語りに水をさすのはやめておいた。

お昼はお汁粉。
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ずっとテーブルに飾っておいた、ちっちゃな羊さんがのったお供え餅を入れた。
取り残されたミニ羊をテーブルに見つけて
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「これは犬かい?」とママ。
「羊でしょ。今年は未年だから」とムスメ。

お汁粉を食べ終わるまでに、このやり取りを数回繰り返す。
以前は、同じことを何度も聞かれるとイライラしたムスメだが、いつの間にか慣れてしまった。
とかく話題がとぼしくなりがちなママとの会話。同じ話題を何度も使い回しできるのでかえって助かるというものだ。

お汁粉を食べたらママと二人で生協へお買い物。
夕ご飯は、生協で買ったハンバーグを焼いて大根おろしをかけた。

「お風呂が沸きましたよー」とムスメ。
「はいよー」とママ。

喋れることは何とありがたいことか。
何ということもない言葉のやり取りが、こんなにママとの暮らしをスムーズに、そして明るくする。

声を失くした一週間は、私に、ママとのお喋りの大切さをあらためて教えてくれたようだ。


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