ある日。
「アルハンブラの思い出」を弾けるようになりたい!と突然思ってしまった。
弾きたいなあ!
この曲、弾けるようになりたいなあ!
めざせ! アルハンブラ!!
さて、何から練習すればいいのだろう?
そうだ! 教室で使っている練習曲集のアレを練習すればいいんだ! アレ!
「遥かなるアルハンブラ」
8小節でおしまいのとても短いトレモロの練習曲です。譜面の指使いを見て初めて「ああ、こうやって弾くのか!」とトレモロ奏法の謎が解けました。薬指→中指→人差し指と順番に同じ弦を弾く。親指はベース音をボーン、ボーンと鳴らす。なるほど~
仕組みがわかったところで練習開始!
最初はトレモロを弾く3本の指が空振りしたり他の弦にぶつかってしまったりで、どんなにゆっくり弾いても「薬指→中指→人差し指」の三連発が成功しない。
これは本当に「遥かなるアルハンブラ」だあ・・・
でも、2,3日練習すると、ゆーっくりではあるけれど、それなりに3本の指がそこそこ連続して弦に当たるようになった。
おお! 遥かなるアルハンブラへの第一歩!
ところが、です。ここで意外な壁にぶつかってしまいました。
ベース音を鳴らす親指が命中しないのです。5弦→4弦→3弦→4弦→3弦→4弦、と順番に動くベース音に親指が当たらない。
何日も何日も練習しました。トレモロの3本指は日に日に器用に動くようになります。
が、親指の命中率はさっぱり上がらない。
ああ・・・やはりアルハンブラは遥かなり・・・・
というところで迎えたギター教室のレッスン日。
「先生、『遥かなるアルハンブラ』がなかなか弾けないんですけど・・・」
「トレモロですね。トレモロはこうやって練習します。
「はい!」
「まず、1弦を親指で弾きます。」
「はい」
「それから、同じ1弦を薬指、中指、人差し指の順に弾きます」
「はい!」
「次に親指を2弦に動かして、残りの3本で1弦を弾きます」
「はい」
「次に、親指を3弦、4弦、5弦、6間と動かして、残りの3本は1弦を弾きます」
「はい!」
「つまりですね、ももこさん」
「はい?」
「トレモロは、親指が安定して弾けないとダメなんですよ」
「そーなんですよー! センセイ!!! 親指が命中しなくて困り果てていたんです~!」
そしてその場で練習すること数分間。
あれ? あれ? あれれれれれ?
親指が、2弦、3弦、4弦、5弦、6弦と、意図したところに当たるようになった!
「じゃあ、弾いてみましょうか、『遥かなるアルハンブラ』」と先生に言われて弾いてみたら・・・・
あれ? あれ? あれれれれれ?
弾けちゃう! 弾けちゃう!
さっきまで親指がほとんど命中しなかったのに、たった数分間先生の説明どおりに練習しただけで、怖いぐらいによく当たる!
まるで先生の魔法にかかったみたい! いや、先生は魔法を使ったのに違いない!
本当にそう思いました。それぐらい劇的な変化だったのです。
家に帰ると、魔法が解けないうちにトレモロの練習を続けました。親指が安定したせいか、3本指の動きも少し滑らかになったような気がします。
先生って偉大だなあ!
ひとしきりトレモロを弾いたところで、休憩かたがたギター仲間のレッスン日記を読みました。
最新の彼女の日記にはこんなエピソードがつづられています。
何をするにも小指が立ってしまう彼女。カップを持っても、ピアノを弾いても、ピーンと立ち上がる小指。
何年も習ったピアノの先生は、彼女の小指の矯正をあきらめてしまった。けれど、ギター教室の先生は見逃してくれなかった。
先生:小指は集中力で立たせないように!
彼女:でも、どうしても立っちゃうんです~
先生:ならば仕方がない! これを使おう!
そして先生は、彼女の小指が立つとぶつかる位置に(生け花用の)剣山を持ってきた!
先生:秘技剣山奏法!
彼女:ぎゃーーーー!!
もちろん、本当に剣山をあてがったわけじゃありません。そこに剣山があるつもりで弾きなさい、という先生のアドヴァイス。
すると、不思議なことに・・・
これまでのウン十年かの彼女の人生で、ピーンと立たずにはいられなかった彼女の小指が、どうにかこうにか立たずにおとなしくしていられたのです!
ああ、彼女も先生の魔法にかかったんだ!
ギター教室の先生というのはみんな魔法使いなんだろうか??
そんなはずはありません。ギターの先生だって人間です。魔法使いじゃありません。じゃ、どうして生徒は魔法にかかるのか?
ギターの先生の魔法。それは、先生と生徒のタイミングがジャストミートした結果じゃないかしら?
わたしは、トレモロを弾くのに親指がコントロールできないなあ、と悩みながら何日も練習していた。そこへ先生のアドヴァイス。ちょうどいい時にちょうどよいヒントをもらって、親指を動かすコツをのみこめた。
彼女は、「どうしたら小指を立てずに弾けるだろう?」と何日も何日も小指を意識して弾いてきたに違いない。そこへ先生のトドメのひと言の「秘技剣山奏法!」。その言葉に込められた「本気で弾こうよ、本気で、さ!」という先生の気迫が、彼女の小指をお行儀よくさせたのに違いない。
生徒のやる気と先生の適切な助言。この二つがかみ合ったときにギター教室の魔法は起こる・・・
それにしても、生徒がやる気になるまで何年も辛抱強くつきあってくれるワタシのギターの先生は・・・やっぱり偉大です。
さあ、きょうも練習しよう。
まだまだ雲の向こうに隠れて見えない遥かなるアルハンブラをめざして・・・